1790年創業、木更津の歴史を語る商家 濱田屋。
明治・大正・昭和と三時代を跨ぎ増改築を繰り返した古建築が、2024年11月、地元の建設会社 株式会社キミツ鐵構建設により「蔵 KURA」としてリニューアルオープンしました。
1Fは餃子専門店「蔵 by ヘンなカタチ」。そして2Fは、山翠舎が内装を手がけたコミュニティスペース「蔵 SPACE」です。
なぜこの物件を引き継ぎ、再生することにしたのか?
そこには木更津の中心市街地が抱える課題が横たわっています。
現地を訪ね、キミツ鐵構建設代表の松本信夫さん、常務の小坂沙知さんにお話を伺ってきました。
(2025年2月10日 取材)
— この物件をキミツ鐵構建設さんで手掛けることになった、そのきっかけは何だったのですか?
松本信夫さん(以下、松本)
5年、6年くらい前かな、ここに家屋があったんですよ。
私はこの本町の区長もやってますから、当主からお話しいただきましてね。
梶さんという方で、ここが本家だったんです。道を挟んだ向かいには分家の呉服屋さんがあって、その向こうにも分家がある。梶家でいろいろ商いをされてたんですね。
その梶家の当主の方が、私なんかよりちょっと若いんですけども、資産家のお家ですから、商売はもうやらないということで。
家屋ももう別の土地にあるから、ここがちょっと朽ち果てた屋敷になってたんですね。
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我が社も建築の仕事をやっておりますので、「ここを利活用していただければありがたい」という話をもらって、取得させていただいたんです。
それで、当初は壊して駐車場にしようかという選択肢もあったんですけれども、
彼女が「ここを再生してチャレンジしようよ」と。それで再生することになったんです。
— 駐車場ではなく古民家再生に決めたのは、何が理由だったんですか?
松本
彼女が「壊すなら会社を辞める」というもので。
彼女は私の娘で、後継者ですから。
小坂沙知さん(以下、小坂)
「今まで残ってきたものをそんな簡単に壊すって言わないでください」と。
「これを残すためにどうするか考えようとするのが大事だ」と。
松本
このすぐ隣のビルが我が社のビルなので、本当はここを駐車場にできたら機能的なんです。
我が社も20、30人弱の社員がいますので。
でも、この建物の再生を熱っぽく彼女が説く。
私も引退しますから、将来後継者として彼女にやっていただけるということで、じゃあ再生してみようかと。
ざっくばらんなきっかけですね。
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— 建築としての価値も感じられたわけですか?
松本
あっちに房州石でできた大正時代の石蔵があって、ここは昭和初期の建物。
奥は明治の店蔵なんです。
そしてここから母屋に繋がってたんですけど、母屋はもう畳が落ち、古い家屋だったんで、それだけは壊したんです。
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小坂
建物的な価値といいますと、明治、大正、昭和の建物がこの駅前の敷地内にこうやって揃って残っているということが大事で。
もとは大店だった商家で、木更津の歴史なんです。
松本
昔、商家としていろんなことをなさったんですよ。
ここは「砂糖濱田屋」っていって、梶家の本家がやっている、乾物やお茶、砂糖を扱ったりするお店だったんです。
だからお茶っぱの木箱もございますしね。
中に残っていたものは廃棄せず、ここで全部(机や椅子、棚として)使ってるんですよ。
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— なるほど。
小坂
向かいには分家さんがやってる「はまだや呉服店」があって、ほかにも瀬戸物のハマダヤ、醤油のハマダヤだったり、ハマダヤさんがほんとうにたくさんあったんですね。
本家だったこの建物も、アールデコ調の内装があったり、スペイン瓦を使っていたり、趣向を凝らしたところが多いんです。板も格天井だったり。
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松本
そう、格天井があったんですよ。
それを取っ払ったら明治8年の梁が出てきた。
小坂
こんな立派な梁があるのは壊して初めてわかったんです。
古い建物に詳しい建築士の方が一回調査に入られて、「この建物はすごい、この小屋組も複雑で面白い」と。
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松本
建築家が「これは残した方がいい」ということでね。
そんなご縁もあったんですよ。
だから残して、頑張るだけ頑張ってみようということですわ。
— こうした地域のコミュニティ再生みたいな関わり方っていうのは、会社として過去にもあったんですか?
松本
うちはもともとは金物業からスタートしてるんですよ。
鍋、釜、釘、トタン、それから仏壇、仏具も扱う金物屋。
それが八幡製鉄がこちらに来たものだから、三井物産系の鋼材の商社として鉄を扱うようになって、
じゃあ建築も鉄工所もやろうかということで。
まあ、今日商いをさせてもらっているということですね。
ここ(木更津駅西口)はかつての木更津の中心市街地なんです。
今は山の方も開発して、中心市街地は駅の向こう(木更津駅東口)側に移ったけど、昔はここに市役所も警察署もいろんな機関があったんですよ。
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— 以前、仕事で木更津の西口エリアをいろいろ歩いたことがあって、木更津の古地図も見たんですけど、もともとはこっち(西口)側しか街はなかったですよね。
松本
向こう(東口側)は蓮田だったんですよ。
— 本来は西の海に向かって開いた典型的な港町で。
松本
そういうことですね。
小坂
昔はフェリーもあったし、人がこっち(海側)から入ってきて、ここらへん(西口)が賑わってた。
ちょこちょこ古い面白い建物もあったんですけど、今は大変さびれてしまって。
私、今、1歳と6歳の子どもがいて、ここから近い保育園に通っているんですけど、
このままさびれたこの町に暮らすっていうのでは、あんまり面白くない。
今回、地域コミュニティの場を作ろうとしているのも、これから子どもが育っていくなかで、「駅前、楽しいよね」って思えるような場所が欲しいなっていう。それがモチベーションになっているんです。
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— ここ何年かで少しは良くなってるんですか?
松本
アーケード撤去して、ほんのちょっとはね。
小坂
大型の商業施設はどんどん撤退しているんですけど、個人で頑張りたいっていう人たちが空き店舗に入ってお店を始めたり。
パン屋さんができたり、そういう頑張りはちょこちょこと。
松本
とにかくね、相対的に地価が安くなって。
バブルのころは木更津の駅前、坪あたり2000万円したんですよ。
それが今は50万がせいぜいでしょ。この辺だって20万、30万。
それでね、この本町区35世帯、小中学生が一人もいないんですよ。
小坂
住んでる方たちが昔からの方たちで、入れ替わりがないまま。
松本
だから、このあたりは定住人口が増えない。
マンションを建てれば増えますけども、そういうところに住む方たちはあまり木更津に介入しないのね。
東京への通勤に利便性がいいから木更津に住むっていうのだから。
小坂
だから「木更津の駅前にも結構いろいろ面白いところがあるよね」と思ってくれるようにしていきたいなと。
この地域にずっとあった会社、これからもあり続ける会社として、木更津市を面白くできたらいいなと。
それで今回初めて、そういう場を作ったんです。
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— 実際出来上がって、どんな印象を持たれましたか?
小坂
よくこんな綺麗にしてもらえたなぁと。
松本
ここ(昭和初期の店舗建築部分)と蔵(明治期の店蔵部分)とを貫通させたんですけど、これは見事ですよ。
ここまで、きれいに仕上げてくれるとは思わなかった。
小坂
土蔵が壊れるんじゃないかってちょっと怖かったんですけど、
貫通させるのにやっぱり慣れてらっしゃる。
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松本
今後、我が社もこういう(コミュニティ空間的な)形でも進化していこうかなと思いますよ。
だからこの欅の棚板も、みんな自前で磨いたんです。
(建物の)中に残っていた桐箪笥も使おう、あるものは使おうと。
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— コミュニティスペースとして、例えばこういうふうに使われるといいな、とかイメージは持たれてますか? そして、これからこの場所が、どういう場所になっていってほしいですか?
小坂
そうですね、MAXHUBも入れてるので会議でも使ってもらってますし、あとは卒園式や入園式、子どもたちの懇親会の場とかで使ってもらったりしてます。
できれば1Fの餃子屋さん(「蔵 by ヘンなカタチ」)や舵輪さんとか、提携している地域のおすすめのお店があるので、そこの料理をテイクアウトしてもらってこの場所を使ってもらえたら嬉しいですね。
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— ケータリングもイベントもできるわけですね。
松本
この間は保育園の忘年会で50人くらいが集まって、賑やかでしたよ。
小坂
最近リピーターで多いのは、ここでセミナーをやりたいという方だったり、ここを会議の場所として使って、その後にちょっと軽く食事とか。そんな使われ方が増えてますね。
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さっきの「ここをどういう場にしていきたいか?」ということで言うと、
「昔ここに濱田屋さんがあったよね」とか「懐かしいね」って、ここへ来る人には思い出してほしいですし、
今の子どもたちが大きくなった時も、「昔ここでこうやって遊んだよね、面白かったよね」と、そんな記憶がまだ建物として残っている、そんな時間が続くといいなと思っています。
木更津にもともといる人たちもそうですけど、外から新しく来た人たちが、木更津ってこんな面白い、歴史のある場所なんだってっていうのを知ってもらう、そういう場所にしていきたいなって思います。
— 今日はありがとうございました。
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