住宅街と商業エリアが混在する新宿御苑。

ここに、山形牛を一頭買いして提供する人気の焼肉店「うしかね」があります。

オープンから2年を経た2021年の1月、オーナーの平兼洋介さんにお話を聞いてきました。

  

焼肉という店舗業態ゆえに苦労した物件探しのお話。

大手チェーン系の外食産業でキャリアを積みながら、いざ自分のお店を開業してみて微妙に変化していった飲食業への思いや考え。独立開業にまつわる、一人のオーナーのリアルな物語です。

(2021年1月25日 取材)

— 山形牛を一頭買いしている焼肉屋ということですけど、なんで山形牛で行こうと思われたんですか?

もともとRamla(株式会社ラムラ)っていう、大手の飲食店チェーンを展開してる会社で働いてて、

それが30歳ぐらいのとき。

当時、その会社の私の上司だった人が辞めて独立して、自分で店舗経営を始めてたんですけど、さらに店舗を拡大していくからみたいな感じで社員を集めてて。

面白そうだったし、私も興味があったんで、今度はその上司の会社に入って、そこで10年ぐらい働いたんです。

今、うちは山形ミートランドさんっていう業者様から牛を買ってるんですけど、その山形ミートランドさんっていうのは、もともとその上司がRamlaにいたときに繋げた会社さんで。

で、その上司がRamlaを出て独立した後、最初1店舗だったのを10年ぐらいで30店舗とかに増やして、業態もいろいろ展開していったわけですけど、そのなかに焼肉業態の店が5〜6店舗ぐらいあって、そこでも基本的に同じ山形牛、山形ミートランドさんの肉を扱ってるんですね。

わたしも10年ぐらいその会社にいたなかで、5年ぐらい焼肉業態のお店にいたんです。

で、なんで山形牛にしたかっていう話ですけど、まあ単純に、自分が食べてきて好きだなっていうのが一つ。

あとはお客様の反応がすごくよくて、実際、前の会社でも、焼肉業態はすべてどこもうまくいっている。

自分が好きなのと、結果も出てるし、ご縁もあるので、そういうトータルな判断で山形牛にしたっていうことですかね。

— 山形牛っていうのはどんな特徴があるんですか?

シンプルに脂が甘いのと、肉の味が濃い。

私が思う肉の重要なところが、顕著にありますよね。

— もともと平兼さんのキャリアは、飲食から入られたんですか?

そうですね。高校生のときに中華屋さんでアルバイト始めてから、基本は飲食しかやってないです。

昔はそんな志があったわけでもなく(笑)

ただフーリーターで転々といろいろやって。

で、まあ「やっぱり飲食かな」と思って、かといってそんなに志が高いわけでもなかく、とりあえず22歳の時に調理師学校に入って。

で、卒業して。 そこからいろいろやろうと思って、イタリアンでバイトとかもしたんですけど、

結局行き着いて就職したのが焼肉屋。

そこで3年半ぐらい働いて、そこから3年おきぐらいに3箇所くらいに転職して、さっき言ったRamlaに入って、

そこの焼肉とかを展開している韓国料理のグループに所属して。

  

そのあとは先ほど話した感じですかね。

— 独立して自分も店を持とうと思い始めたのはいつごろからですか?

本気でそう思うようになったのは35歳くらいからかな。

— 独立した時は?

今オープンして丸2年なので…41歳かな。

— 独立しようと決めてから、まずはどんなことをしましたか?

まずお金をちゃんと計算しました。

開業にこれぐらいお金がかかるから、これぐらい貯金がなきゃできない、みたいな感じで。

あと融資について調べたりとか。

それまでは何となくお金を貯めてたりはしているんですけど、いざやるとなると、どれぐらかかるか。

でも、そう決めてから実際に独立するまで6年ぐらいかかってるんです。

実際どういうお店をやるとかも、そこからでしたしね。

— ということは、独立しようと決めた35歳のころは、焼肉屋をやるってのは決めてなかった?

もともとは鳥の創作居酒屋みたいなのをやろうと思ってたんです。

— それが最終的に焼肉屋に決まったのは?

開業までにだんだん時間も迫ってきて、「どうしようかな」って考えるなかで、シンプルに自分が食べるのも好き、やるのも好きってなると「やっぱり焼肉かな」って思ったのが一つ。

あとは、焼肉の方が初期投資が高いんですけど、それでも予算的に行けそうだなっていう感触が出てきていたので。

— 利回りがよかったりするんですか?

私の感覚では、初期投資が高いけど、堅い。

— 商売として堅いということですね。

こういうの(排煙ダクト)があったりしてどうしても初期投資は高いですし、牛の原価も高いですし、そういうのは大変ですけど、業種としては堅い。

私は今ここ、新宿御苑でお店を出してるわけですけど、独立する前の会社もオフィス街兼住宅地、みたいな街で展開している会社だったんですね。

それがすごくよくて。そういう場所、繁華街とかじゃない場所、地域密着っていう感じでやれるような場所っていうので物件を探してたんです。

この新宿御苑も都心ではあるんですけど、周辺に住んでいる方がいて、みんな近いところで食事することが多いんです。

家族とかで食事する人、多いですよ。

— その街に住んでる人が利用するお店ですね。

やっぱ焼肉屋とかが自分の家の近くにできたら、自分も逆の立場だったら「行ってみようかな」ってなりますよね? しかも焼肉屋って、家族からカップルまで幅広い層が来るじゃないですか。

そういう意味で「業種としては堅い」という私の経験上の判断があって。

— ちなみに内装を山翠舎に頼んだのにはどんな経緯があったんですか?

私は、その上司の会社では最後の2年間はバイトだったんです。

「もう独立するから、動きたいから」って言って、社員からバイトに変えてもらって。

だから時間はそれなりにあるじゃないですか。

でも物件を探すのに1年半以上かかったんですよ。

焼肉屋って物件をなかなか貸してくれなくて。

— ああ…。そうだったんですね。

ほんと貸してくれないんですよ。

物件探しにすべてを注いで一年半かかったようなもので。

申し込み13件目で、ようやくここを見つけた感じ。

審査に落ちたり、断られたり。大家さんが最初「いいよ」って言ってても、ダクトの吹き出し口が裏の住居のベランダのところにしかつけられなくて、「ちょっとやっぱりできないね」とか。

  

そんなことがいろいろあって。 とにかく2年間ぐらいフリーターだったんで、時間はあったんですよ。

だから私、10社ぐらいかな、施工会社さんと面談して話を聞きに行ってて。

  

そのなかで、山翠舎さんの対応がすごくよかった。

ほんと、そこじゃないですか。丁寧で。

あとこの木の感じがいいなっていうのとか、施工事例とかも見てて、それも良かったですしね。

— 実際に店舗を作られて、平兼さんがこだわったポイントを教えてください。

木のシンプルな質感がある焼肉屋にしたかったので、木を全面に出しているところですかね。

山翠舎さんの施工事例をいっぱい見て、「この店のこういう入り口にしてほしい」「この店のカウンターのこの感じにしてほしい」「トイレはこの店のこの感じ」とか、私の場合は、けっこう指定させてもらって。

その上にデザイナーの難波さんのアドバイスとかを聞いて作り上げたみたいなところがあって。

— 機能面でデザインでこだわったところはありますか?

機能っていうと?

— 例えば、スタッフが動きやすいように動線をどう作るかとか。

それはほとんど私が描いてます。もちろんプロが描くような図面じゃないですけど、テーブルは何個、幅は何センチ、調理場はこうでこうで、ここに冷蔵庫を置くからとか。

前の会社が出店が多かったし、僕も出店立ち上げの店長とかもやってきたので、こんな感じでやるっていうのはなんとなく経験してるんです。

ざっくりしたレイアウトの希望は僕の方で決めつつ、「このサイズだと入らないですね」「このサイズだとちょっとこういうとき大変ですよ」とか、デザイナーさんにアドバイスをもらいながら進めたっていう。

— オープンが2019年の1月29日。ちょうどコロナの一年前ですね。

そうですね。一年経ったぐらいにコロナが激しくなって。

でも一年経ってからだったのでよかったですよ。お客さんもある程度ついてくれてからだったんで。

コロナになって、常連さんに助けられてるっていうのをすごく感じましたね。

— オープンから2年が経ちましたけど、これからどんな風にやっていきたいですか?

僕にはあんまりこれからっていう観点がなくて。

今目の前のことをしっかり楽しくやっていくことが重要だと思ってるので。

この店自体はしっかり楽しんで、いい営業を続けていくっていうことくらいしかないですかね。

あと、出店は考えてまして。

— 2号店ですか?

名前とか場所をどこにするか、そういうのは決めてないんですけど、今思ってるのは小さい店をやりたいっていうこと。

ここ13.5坪なんですけど、ここより小さいお店。1人か2人で回せる小さいお店。

— それはなぜですか?

前の会社が出店志向で、そういうことの楽しさもあった。

だから出店志向も少し持ちつつみたいなスタンスで自分も開業したんです。

けど、実際自分で独立開業してみて、自分の経験や考え、感情だったりを思うなかで、もうちょっと、飲食の楽しさを深掘りして向き合いたいなっていう気持ちが強くなってきたんです。

今、僕がこの調理場の中で肉を切ったりしてお客さんに提供してるわけですけど、客席までがこれぐらいの距離だと、仲のいい常連さんとかもいますし、増えはしますけど、やっぱりちょっと距離がある。

  

だから次は、お客さんの声も全部聞こえるようなカウンター商売をしたいなと。

そんな考えが、開業してみたら芽生えてきましたね。

— 今日はありがとうございました。