東京は南阿佐ヶ谷にある「串カツ屋 エベス」 。
1999年の開業以来、川名洋彦さんと佳奈さんのご夫婦が切り盛りしてきた居酒屋さんです。
24年にわたり飲食業の盛衰を乗り越え地元に愛され続けてきたこのお店が、アフターコロナの時代に合わせて2022年10月、リニューアルオープンしました。
店舗を3つの空間にわけ、一つは奥さんの佳奈さんが運営する新店舗「カフェ ドドナエア」。もう一つはリニューアルした「串カツ屋 エベス」で、こちらは 旦那さんの洋彦さんが引き続き運営し、残りの一つは両店舗の共有スペースというスタイル。
どんな背景があって今回のリニューアルとなったのでしょうか? お店を訪ね、ご夫婦にお話を伺ってきました。
(2023年8月24日 取材)
— リニューアル前は、今の「カフェ ドドナエア」になっている部分も「串カツ屋 エベス」だったんですよね?
川名洋彦さん(以下、洋彦)
そうです。
— 「串カツ屋 エベス」自体は何年にオープンされたんですか?
洋彦
もう24年間やってますね。
— ということは、1999年オープン?
洋彦
そうです。
今のこの建物(マンション)ができるちょっと前に開業したんです。
開業して2年ぐらい経ってからこのマンションが建ったんです。
で、そのままうちはこの広さを。
— つまり、もともとは一戸建てのお店として開業したけど、そこにマンションが建設されることになって、今のマンション1Fに店舗として入ったと?
川名佳奈さん(以下、佳奈)
そうですね。趣のある古い木造の一戸建てだったんですけど。
— それが今回なぜ旦那さんと奥さんで、その店舗を「串カツ屋 エベス」と「カフェ ドドナエア」の2つに分けて、それぞれの店をやろうということになったんですか?
洋彦
20年前だと、団体のお客さんも多かったんですね。このあたりは区役所、郵便局、消防、警察が近くにあるんです。それでそういう方たちも団体のお客さんとして集まってたんですね。
それが時代の流れで大勢の人で飲むというのが少なくなってきて。団体客利用の回数が少しずつ減っていく中で、「そろそろ考えどきだよね」っていうことで。そうなったときにコロナになって。じゃあこれを機に変えちゃおうと。
— なるほど。
洋彦
喫茶店は、うちの奥さんが見に行くのも飲みにいくのも好きだから、それでいろいろイメージがあって、じゃあちょっとクラシック風の喫茶店を作ろうというので、お店の半分を喫茶店にしたんです。
— 今回の改築で「こうしたい」っていうデザイン的なイメージは奥さんが主体となられたんですか?
佳奈
「エベス」の方は以前のままの雰囲気を残してもらったんですけど、残りの2つのゾーンには、けっこう私の意見が強めになってます(笑)。
— 2つのゾーンっていうのは、カフェゾーンと、(カフェと串カツ屋の)共有ゾーンっていうことですね。
佳奈
はい。
洋彦
お店を作るなら木のイメージでっていうのはあって、それで奥さんが山翠舎さんに頼んだんです。
佳奈
落ち着いた感じのカフェにしたかったから。
若い人好みというよりは、少し年配の人が落ち着けるような場所にしたかったので、そういう感じでお願いしたんです。
— リニューアルオープンはいつでしたか?
佳奈
去年の、2022年の10月22日ですね。もうすぐ一年ですね。
— 「串カツ屋 エベス」も同時にリニューアルオープンしたんですか?
佳奈
同時はできなかったですね。
やっぱり助っ人が欲しかったので、オープンをずらさなきゃと思って。
カフェがオープンの時は主人に手伝ってもらって、串カツのほうはそのあとから。
洋彦
串カツ屋は12月のリニューアルオープンでしたね。
— リニューアルに合わせて、ちょっと今までの「串カツ屋 エベス」と変えたところもあったんですか?
洋彦
前は宴会需要に合わせて、宴会メニューがいろいろありました。でも今はないです。それよりも、個々のお客さんが楽しんでもらえる方向に変えたんです。
単品のメニューを増やして、質も少し良くしまして。
やっぱり宴会の需要に合わせると、ある程度料理が同じようなものになっていくんです。みんな嫌いなものがないように作るので。
佳奈
一般的な料理にしていくほうが無難というか、クセのない料理になっていくんです。
洋彦
なので今は個性のある料理、手間をかけた料理も交えてっていう感じですね。
佳奈
例えば季節のものとか、あとアジですね。アジを捌いてわざわざ串揚げにするんですけど。座敷がないぶん一度にわーっとオーダーが入ることはないから、そのぶんちょっと手をかけられるようになりましたね。
— リニューアル前は、奥さんも旦那さんと一緒に「串カツ屋 エベス」をやられてたんですか?
佳奈
やってました。
— 24年前の立ち上げの時から?
佳奈
そうです。
— そして今回、奥さんの方のカフェが新たに始まったと。
佳奈
はい、まったくのゼロから(笑)。
— 他の喫茶店とは違う、この「カフェ ドドナエア」の特徴というとどんなところになりますか?
佳奈
阿佐ヶ谷は喫茶店が多いエリアで、チェーン店は一通りあるし、個人店も駅から少し離れればけっこうあるんです。「競合が多いから喫茶店を開くのってどうなのかな?」っていうのはあったんですけど。ほんとに、自分が今まで行った中で良かったお店を全部組み合わせて自分好みのお店にしただけで(笑)。
メニューもそうなんですけど、お客様に合わせるというより、自分が行きたいお店を作るっていうので考えて。コーヒーをネルドリップにしてるのも、自分が飲むならネルドリップじゃないとイヤだっていうところから入ってるから、
— ネルの良さってどんなところにあるんですか?
佳奈
ネルだとコーヒーの中にちょっと油分が出るので、ふくよかっていうか、まったりというか。雑味とは違ってトロッとした感じがあって。私にとっては「コーヒーを飲んだ」っていう気持ちになるんですね。
— ということは、深煎りの方が向いてる?
佳奈
そうです。ネルには深煎り。
— ちょっとまた話が変わるんですけど、施工に山翠舎を選んだのは木の雰囲気が良かったからということでしたが、
佳奈
山翠舎さんが作られているカフェに以前、行ったことがあって、
— なんていうお店ですか?
佳奈
神田の「乙コーヒー」さん。まだ自分がカフェをやる予定のなかったころに行ったんですけど、そこのカウンターの高さが気に入ったんです。
だから山翠舎さんに、カウンターをこの高さにしたい、カウンターの幅も同じにしたいって伝えて、この店でもそうしてもらってます。
— 実際、山翠舎に頼んでみてどうでしたか?
佳奈
今思えばですけど、私、古木愛とかはゼロだったので、お店の外や中にある古木、それについては一切意見を出してなくて。でもうまくレイアウトしてお店に合わせていただいて、お客さまの評判もすごくいいんですね。
— 山翠舎側からの提案として「ここに古木を配置してはどうですか?」という感じだったわけですね。
佳奈
そうです。そうやって山翠舎さん側からしていただいたことで今のこの空間ができあがっているっていうのがあって、古木をレイアウトしていただけたのは、とても良かったです。
— しかし1999年から飲食店をやられていると、時代の流れをいろいろリアルに感じてこられたと思いますが、
佳奈
感じますよね。
— そんな時代の流れの中でこれからどうお店をやられていくのか、今考えていることやイメージはありますか?
佳奈
わたしは人との繋がりだと思ってるので。
食べ物とか値段とか今まで必死に試行錯誤して、料理も新しいものを考えたり、値段も他店をみて合わせたり、いろいろやってきた結果うちは今のかたちになってるわけですけど、それでも結局、美味しくて安いものなんて山ほどあるわけです。周りのお店も頑張ってるわけだから。
でもカフェやって本当に思うのは、みなさんコーヒーも楽しんでくれてるけど、雰囲気と空間と、お話なんです。もうそれが目的で来ていただいてる感じがする。
「エベス」もそうだけど、社長(洋彦さん)と話したい、私と話したいと思ってきてくれる方が多かったから。店舗がこぢんまりしてるので、余計にそういうことができるわけで、そこを大切にすれば商店街のお店としてはやっていけるんじゃないかなと思ってるんです。
あと、開業から20歳も歳をとって体力も落ちてるから、定休日も取ってやっていこうと。前は取らずにやっていたので。
— 今は週休2日、とかですか?
佳奈
いや、1日ですけど、前はゼロでやってたんです。
これからはその辺はちょっとゆるくして、ていうのは思ってます。
— 旦那さんの方は?
洋彦
そうですね。うちもお客さんと話す時間が長くなった気がしますね。
— それは生き方として、自分的にもその方が合ってるようですか?
洋彦
そうじゃないかな。話してればお客さんも多少は待ってくれるからね(笑)。
佳奈
お客さんは、話すのが楽しくて来てるところがあるんです。家で飲んでもいいところをわざわざここに来ていただいているわけですから。
洋彦
そうですね。顔を見せに来てくれるね。
— しかし24年続いているというのは、飲食店としてなかなかのことですよね。
佳奈
頑張ったよね(笑)。
— そこまで続けてこられたポイントのようなものがあるとしたら、何でしょうか?
佳奈
自分に厳しかったですよ。やっぱり休まないっていうのは大切だったんじゃないかな。あと、食材のロスを出さないようにとか。
洋彦
お客さんの要望をいろいろ聞きましたね。「誰々はこういうの嫌いだけど」とか、「この時間までにはこの人数しか集まらないけど」とか、そういう声に耳を傾けながら臨機応変にっていうのは、一般的なお店よりは多かったんじゃないかな。
休みの日も開けるとかね。「この日にみんな集まるんだけど」って。「じゃあ、その時間だけ開けよう」って。そんな感じですよね。
やっぱり長いことやってると、例えば親子で来ていた当時6歳だったお子さんが、もう30歳ぐらいになってまたお店に来てくれたりする、そういうことがあって。それも長いことお店をやっていることの楽しみですよね。
— 今日はありがとうございました。