何十年とかけて店主の遠藤賢二さんが買い集めてきたウィスキー。その数は店に並んでるものだけで500本。
限定品をはじめ、今では手に入らないものも多い。
そのウィスキーに加えレコード1000枚、CD3000枚のコレクションが店を覆う。
2023年の4月18日、水天宮にオープンしたバー、SOUNDSCAPE。
高校一年でロックミュージックに出会い、10代の終わりにはいつか自分の店を持つことを決めてから40年、57歳の遠藤さんが開いた大人のロックバーだ。店への思い、独立開業までのストーリーなど、お話を伺ってきました。
(2023年5月22日 取材)
ロックを静かに聴けるお店をやりたい、ずっとそんな夢を持たれてきたと伺っています。
私は見てわかるでしょうけど、サラリーマンにはちょっと向いてない。10代の頃から自分の店をやりたいと思ってたので、栄養士と調理師の国家資格はきちっと取ったんです。
10代の時に資格を取られたんですか?
取りました。大学には行かず専門学校へ行って取得したんです。
結局、26で結婚して30で子どもができましたので、子どもを大学まで上げる義務があり、それで仕方なく35年サラリーマンをやっていたと。
で、いざ自分の店をやろうと思ったらコロナ、と同時に同居している両親が要介護になってしまって。
当初の予定では55歳で開業予定だったのが、2年半遅れたっていうところですかね。
やっと今年(2023年)4月18日にオープンして、今1ヶ月ちょっと経ったところですね。
10代でもう自分の店を持つことを決めていたんですね。
本当はもっと早くとは思ってたんですけど、やっぱりそうはいかないですよね。
子どもを育てて、退職金だけじゃ足りないから金を借りて店を開いたわけだけど。
私はギター小僧で、ずっとロックを聴いてきたので、店をやるならロックバーがいいと。
ただ、ロックバーっていうと、ギャーギャー店で騒いで喧嘩したり、タバコをパカパカ吸ったり。だいたいうるさい。でも私はそういうのは好きじゃないので。
イメージとしてはジャズバーみたいな感じで、流れている音楽がジャズではなくてロックというだけなんです。
音楽は何に衝撃を受けてその世界に惹かれていったんですか?
ロックを聴き出したのは高校一年からですね。マイケルシェンカーとかアイアンメイデンとか。メタルですね。
私は1965年生まれなので、ちょうどティーンエイジの時にメタルブームとアマチュアバンドブームがあって、そういう時代的なものもあったのかなあ。
ミュージシャンの道へ行こうとは思われなかったんですか?
ぜんぜんないですよ、ギターも遊び程度でしたから。
独立に向けて、ずっとレコードとかお酒を買い集めていたと伺っています。。
ずっと集めてましたね。
ちょうど20歳のころに時代がレコードからCDへと変わっていって、自分で働いてお金を稼ぐようになったのが20歳からだから、レコードはそんなに買えていなくて。
働いて、その小遣いでCDを買い集めるようになって、CDは3000枚ですね。レコードは1000枚ぐらいしかないかな。
レコードはこの店をやるためにいっぺんに買い集めた感じですね。
オデーィオにだいぶお金を、300万円かけてるので、やっぱりCDじゃない、レコードだなと。
水天宮前でお店を開いたのは何か理由があるのですか?
ここしか空いてなかったんですよ。
御茶ノ水で探してたんですがいい物件がなくて。結局不動産屋にツテがないのでネットで調べていても、ネットに出た時はもう契約が決まっちゃってるんですよ。
しょうがないので歩いて探して、やっとここを見つけて。
そしたら、山翠舎の相馬さんも探してくれてて、「ここあるよ」って。「ああ、ここは自分の足でも見つけた」と。そしたら「あっ、ネットでも出てますね」と。そんな感じで。
どうしてもここの場所っていうよりは、ここしか空いてなかった。
人形町の甘酒横丁とかでも探してたんですけど、甘酒横丁と比べたらこちらはぜんぜん人通りが少ない。
ただポジティブに考えれば、甘酒横丁より落ち着いていて、そのわりに人形町からは2〜3分で来られる。要は、ロックを静かに聴いてウィスキーを嗜むバーなので、酔っ払い客とかのことを考えるとこの場所で良かったかな。隠れ家的な面もありますし。
あと、このあたりに住んでいる方は富裕層の方が多いから、この1ヶ月で会社の社長さんとか一部上場企業の取締役とかもお客さんで来てくれるようになりましたしね。
内装を山翠舎に決めたのはどういった理由で?
山翠舎に行く前に、ほかのデザイン会社も2、3社当たってます。
相見積もりを取るまではいってないですけど、こっちの話をきちっと汲んでくれるかどうか、そういうのも知りたくて。
その中で、いちばん山翠舎さんの当たりがよかったかなと。
他の2社のうち、一社は一人でデザインをやっててあとは外注だったのでちょっと心配だった。
もう一社は、私の意を汲むというよりは、「遠藤さんはそう思うかもしれないけど私はこう思う」と。我が強い。
それに対して、山翠舎さんは私の話を聞いてくれたのと、会社的にもしっかりしてたので。
なにぶん私のような脱サラ組だと、金を借りるのも大変。
融資の関係も少しアドバイスをもらって金を借りることができたり。山翠舎さんにはそういうシステム(山翠舎オアシス)があったので、それを有効に使って、やってもらえるところはやってもらったほうが店づくりに専念できるっていうこともあって、それで山翠舎さんにお願いしましたね。
内装でこだわったポイントはどんなところですか?
入ってすぐロックバーってわかるところですね。
あと来たお客さんが「木を使ってるのでとても落ち着きます」って言ってくれるので、そういうところもよかったかなと思います。
ちなみにあのギターは何か特別なギターですか?
これはジミー・ペイジ モデルですね。1992年モデル。ギブソンの本物で120万円ですけど、これが1970年とかだと桁が一つ変わっちゃったりするんです。
相当なウィスキーのナインナップですが、遠藤さん自身もお酒が好きなんですか?
私はそんなに飲まないんですよ。ただウィスキーの知識はありますよ。ウィスキーは500本置いてあるので。
日本のウィスキーとスコッチがメインで。バーボンは30種類くらいしかないですけど、それでもバーボンを30種類も置いてる店はそうない。その上、もう手に入らない酒とかもね。
それをチャージも取らずに、これだけ安く提供しているのはたぶんウチが一番じゃないですかね。
日本橋でアードベッグをこれだけ置いてあるのはウチが一番だと思いますよ。
少なくともウィスキーはどこにも負けないですよ。
このお酒がおすすめっていうのはありますか?
うちはアードベッグをこれだけ揃えてるんですよ。みんな(カウンターに)並んでいるのは限定品なんです。年代物です。
あとスプリングバンクも揃えてますけど、今じゃ工場が止まっちゃってるんでほとんど入ってこないですし。
銀座の店でも取り扱わないような、並んでないような通好みのものをけっこう集めてますね。
だから、コンセプトはウィスキーとロックなんです。
私の中ではウィスキーとロックは対なんですよ。私の中ではロックといえばウィスキーなんですね。
しかし、35年サラリーマンとして働きながらお子さんを大学卒業させ、長いプランを立てて自分のお店を持つに至ったっていうのは、すごいことですね。
ウィスキーもその長い間をかけて買い集めてきたので、これも10年前のウィスキーで、今じゃ絶対手に入らないですからね。
仕事は営業だったので、数字さえ上げていれば会社も文句は言えないわけです。営業車で会社を出てしまえば、何をしてても良かったんです。私、こう見えてもトップセールスマンだったので。
だから、営業で会社を出るついでに、ウィスキーを探したりレコードを探しに行ったりしてましたよ。
息子には奨学金は借りずに大学卒業するまで3万円ぐらい小遣いをやっていたので、いちおうキチッと親をやってましたよ。