3,000ともいわれる飲食店がひしめく外食激戦区、東京神保町。ここに「ほろほろ鳥」と「東京しゃも」をメインに掲げた焼鳥屋さんがオープンしました。
店主は緑川友也さん。昼間は会社勤めをしているという奥様が、夜はお店のお手伝いに、着物姿の女将となって立つこともしばしば。
お店の名は自身の苗字にちなみ「焼鳥みどり」です。
オープン(2024年6月24日)から1ヶ月半ほどが過ぎた8月、お店を訪ね、独立開業までの経緯などお話を伺ってきました。
(2024年8月6日 取材)
— 「焼鳥みどり」はどんな特徴をもった焼鳥屋さんですか?
僕が修行した焼鳥のお店が2軒あって、それぞれのお店に紹介してもらった美味しい鳥を使ってます。
一つはほろほろ鳥。フレンチのメイン料理とかで使われたりする鳥なんですけど、日本でも岩手で育てているところがあって、そこのほろほろ鳥を、丸から捌いて使ってます。
あともう一つは東京しゃも。東京で育てられてる筋肉質の鳥で、焼鳥にすると硬いと言われるんですけど、それを硬くならないよう筋を綺麗に取って。
味わい的には、ほろほろ鳥は脂がよくのってジューシー。一方で、東京シャモはむっちりと筋肉質。2種類の鳥で味わいにコントラストを出しながら、美味しいお酒と一緒に楽しんでもらいたいなって思って作ったお店です。
— 飲食の世界にはどんなきっかけで入られたのですか?
25歳ごろに洋食レストランのホールでアルバイトを始めたんです。ダイニングバーみたいなお店で、ワインとかカクテルとか、洋食料理があって。
そこでワインとかお酒にすごいハマって。
— 日本酒にもハマったということですか?
そのころは日本酒はまだで、リキュールとかワインですね。
それでそのあとバー業態のお店に転職して。ナイトクラブだったんですけど、そこで毎日毎日、飲み倒してたんですね。
— 仕事とは別にですか?
仕事で、ですね。でも、このままこの生活を続けてたら死んじゃうなあと思って。
— つまり、飲まなきゃいけない仕事だったわけですね?
お客さんと一緒になって飲むのが仕事だったんです。
マネージャーという立場で昼間は数字の管理をするんですけど、夜の営業時間は、お客さんを呼んで、売り上げを立てながら一緒に飲むっていう仕事で。
そこで知り合いも増えて、このままこの生活を続けてたら体力的な限界がくるから、これは自分でお店をやった方がいいかなあと。
そのためには包丁を握る仕事を覚えないとなと思って、それでナイトクラブを辞めて、焼鳥屋で修行を始めたんです。7年前ぐらいですかね。
— その焼鳥屋さんではどんなことを学ばれたんですか?
串打ちして焼いて。焼き場以外にも調理場とか。基本的な調理のイロハはそこで教えてもらった感じですかね。
そのお店はランチもやっていて、人気店だったので昼から大盛況で、忙しい状態をさばくっていうのは、すごい学びました。
— 何というお店ですか?
人形町の江戸路っていうお店です。親子丼の玉ひでの姉妹店の焼鳥屋さんです。
— そこは何年やられて?
3年半ぐらいですかね。
「江戸路」で修行して3年ちょっと経ったころ、そろそろ自分のお店を出そうと思ってた時にコロナが流行り出したんです。
自分のお店をやるどころじゃない状況になってしまったので、もう一軒、修行に行ってみようと。
自分で食べ歩きするなかで、大塚の「蒼天」で修行したいなって思ったんです。
そこの大将のかっこよさ、焼鳥の美味しさ、お店も山翠舎さんが作ってて、なんかもうすべてがバチっと決まってて、「修行するならここでしたいな」と。それで「蒼天」でも3年半ぐらい修行したんです。
— コロナによって、結果的にもう一軒別のお店でも修行することになったと。2軒修行したことによる発見はありましたか?
そうですね。お肉の保存の仕方も違ったりで、いろいろ発見はありましたね。面白い経験になったと思います。
— そして「蒼天」の修行を経て独立されたわけですが、物件探しは大変でしたか?
半年ぐらい探してましたね。
— エリアを決めてですか?
エリアは「中央区、港区とか、ある程度都心の区で」というくらいにしか決めてなくて、その中で、家賃と坪数、一階の路面がいいなあという条件で。
それで出てきた物件に申し込みをしたり内見したりしてたんですけど、焼鳥屋さんっていうことで全部断られて。
— 煙ですか。
はい、煙で。
ここの物件も、もともとは軽飲食しかダメだったんです。
それが、僕がちょうど申し込むタイミングでビルごとオーナーチェンジが入って重飲食がオーケーになったので、それで借りられたっていう。
— 山翠舎に施工を依頼されたのは、どういう経緯で?
直近の修行先の「蒼天」が山翠舎さんに施工してもらっていたので、それでですね。
— お店が完成して、特に気に入っているところはありますか?
やっぱり古木の柱ですかね。あと、表につけていただいた蔵戸とか。
ほかには、厨房の壁に美濃焼のタイルを一枚一枚貼ってもらったんですけど、これも気に入ってます。
自分が緑川っていう名前なので、お店の名前も「焼鳥みどり」とつけたんですけど、それでタイルも深い緑色にしたんです。
— ちょっとまたお店の特徴の話に戻るのですが、焼鳥はコース形式での提供になるんですか?
はい。コース形式です。
今はオープンして間もないので「お試しコース」でやってるんですけど、お盆明けからはお試しコースは終えて、フルコースか、串のみのコースの2種類のコースでやっていこうと思ってます。
— フルコースだと、どんな流れになるんですか?
修行先の「蒼天」が一汁二菜からスタートするコース形式で、私も小鉢2つとお椀からスタートする形にしてます。そこからサラダ、串物が野菜を含めて8本、レバーパテと茶碗蒸し。あとは肉料理。
例えば昨日はチョリソーを自分で腸詰めして出したんですけど、自家製チョリソーか、もも肉のブロックを焼いて切り分けて出したり、「選べる肉料理」をやろうかと思ってます。
— ワインとのペアリングもあったりしますか?
ペアリングまではまだちょっとできてないんですけど、お客さんに「お酒はお任せで」と言われることもあるので、そのときは料理の流れを見ながら日本酒を出したりワインを出したりっていうのはしてますね。厳密なペアリングではないんですけど。
— 揃えているお酒には思い入れがあったりするんですか?
そうですね。ワインのソムリエ資格を持ってるので、ワインやシャンパンはたぶん、他の焼鳥屋さんにはなかなかないぐらいのラインナップじゃないかと思います。
日本酒は「蒼天」で修行してた時、実際に酒造りの手伝いに蔵にも行ったりしてたので、
— どこの酒蔵へ行かれたのですか?
泊まり込みで酒造りを手伝ったのは、岐阜の小左衛門(中島醸造)さん。それで思い入れがあって、日本酒メニューのなかで一番最初に持ってきてます。
厨房のタイルが岐阜の美濃焼なのもちょっとそういう思いがあります。
あと大信州ですね。僕の両親が長野で、馴染みがあるので置いてます。
— オープンから1ヶ月ちょっと経ちましたが、どんな具合でしょうか?
もうちょっとスロースタートになるかなと思ってたんですが、意外と忙しいですね。
— これからどうなっていきたいか、思い描いていることはありますか?
やっぱり10年、20年先も続けていたいなっていうところですかね。
焼鳥屋なので、店舗展開が難しいんですね。だいたい大将が焼いてるお店って、そこ一店舗だけっていうところが多くて。あんまり店舗を増やしてっていうのは考えてないんです。
こつこつ謙虚に営業して、健康を大事にして、お客さんを大事にしていきたいです。
— 今日はありがとうございました。